ー 泡かたの恋 ー 16
「奥田、大丈夫?」
「え?」
前の席の杉原が俺の顔を覗き込んで尋ねた。
前から回ってきたプリントを俺が受け取らなかったからだ。
「あ、うん、大丈夫。ボーッとしてた」
そう言うと、杉原は笑みを浮かべて前を向きなおった。
プリントを手にしたまま、俺はなんとなく隣の席の金森に目をやる。普通にプリントに視線を落とし、確認しているようだ。
俺は、保健室のアツシと金森の会話を耳にしてから、ずっとモヤモヤしたまま。変な考えはやめようと思いながらも、金森の秘密を知っているから想像してしまう。アツシは金森から聞いたのだろうか。
授業も終わり、天候も悪い事から帰宅を急かされた生徒は足早に帰途についたが、俺はなんとなくアツシと金森と帰るのを躊躇した。
俺の勝手な想像なんだけど、二人の間に入ってる自分を想像すると居心地が悪い。
今日は理由をつけて別々に帰ろうか。
アツシがいつもの様に俺の所にやって来る。まったく普段通りの表情で、俺は戸惑った。まだ理由が思いつかない。
「文ちゃん、わりぃ。今日ちょっと寄るとこあってさ、オレ先に帰るから」
「ぁ、…そう?うん、わかった」
正直ホッとした。あっちから言ってくれて良かった。と、思ったのも束の間、隣の金森が「じゃあ、オレと奥田で帰ろう」と言う。
「え、…あ、うん」
微妙な感じで返事をした俺。
じゃあな、と言ってアツシは俺たちを置いて教室から出て行った。
数名の女子が金森と話そうと近寄ってくるが、俺の顔を見ると逃げるように教室から出て行った。
俺って怖そうにみえる?
アツシに比べたら全然優しい顔立ちだよ?
「帰ろうか」と金森に言われ、俺はうん、と頷くと続いて歩いた。
並んで歩くと、つい金森の背中の痕を思い出してしまい、話しかけるタイミングを逃していた。
「奥田は春休みの予定とかある?」
「え?…いや、まだないけど」
「オレ、引っ越す前はコンビニでバイトとかしてたんだよね」
「静岡で?」
「ああ、部活は特に厳しくないし、週の半分くらいはしてた」
「そうなんだ。俺やアツシは部活毎日あったし、夏休みも大会に向けて頑張ってたからなぁ。バイトした事ないな」
「運動部ってあんまり遊ばないんだね」
「んー、まぁ休みの日は寝ていたい、かな?」
「じゃあデート代はどうするのさ」
「え?デート代、って…そういうのしないから。まあ、友達と映画行ったりは親から金もらうし」
「ふぅーん、奥田もアツシも彼女いなかったんだね。モテるってタイプじゃないけど、モテないタイプでもないのに」
「なんだよ、それ。俺は姉と妹に挟まれた時点で女は苦手になったけど。アツシは……」
「アツシは無自覚だけど、多分オレに近いかも」
「え、………」
また一瞬で保健室での二人の会話が蘇ってきた。