おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

病院で死後処置の手伝い

Image フューネラル

真夜中の病室へストレッチャーを押して向かいます。亡くなった方をお迎えに上がるのです。対面したベッドの上のご遺体は、まだ身体中にチューブとコードが沢山ついていました。高齢者の臨終の時は身体中が管だらけの状態になることはよくあります。多くのケースでは、ご家族が間に合い、担当医が死の兆候と死亡時間の確認をして「ご臨終です」と伝えた後で、一度ご家族に退室いただき医師と看護師で挿入されていた管類を抜去していきます。病室からあえて退出をお願いする理由は、見ていて気持ちの良い作業では無いのと血液や体液が空気中に飛散する恐れもあり感染管理的に危険だからです。


顔馴染みの看護師さんがお一人でこれからエンゼルケアをするところでした。「あら、葬儀屋さん、早かったのね、ご家族はまだ来ていないのよ。今日は「ステる」患者さんが重なって大変、これから処置するから少し待っていてね」


「ステる」とは医療現場で「亡くなる」を指す隠語・専門用語です。ステルベン(sterbenドイツ語の死ぬ)からきています。現場では「ステる」「ステった」などと略して使われます。又亡くなった後の身体の処置はエンゼルケアまたはステる処置とも呼ばれます。


「手伝いましょうか」「あら、悪いわね、でもお願い、ご家族が来る前に済ませたいから」


エンゼルケアのやり方は医師が挿入したものは医師が取り除き、看護師が挿入したものは看護師が抜去という決め事がある所もある様ですがここでは全てのコードやチューブを看護師さんが綺麗にしていきます。身体の管の中には直接皮膚に縫いつけている管もあります。その場合はハサミで医療用の糸を切断していきます。


管の種類には、通常のマスク型人工呼吸器や鼻から入れる気管チューブ、喉を切開して埋め込む呼吸チューブ、頭に脳室ドレーン、胸には中心静脈カテーテル、お腹には胃ろうの管、腹水穿刺で刺されたアスピレーションカテーテルの排液チューブ、膀胱尿道カテーテルなどがあります。心電図モニターのテープを剝がし、最後に注意して点滴の針の抜去をします。


献血をされた方は思い出してください。看護師さんが血管の針を抜くときに「手で5分程押さえて」と言われたはずです。生きている身体は血小板の作用で止血され血が止まります。しかし死体は血が止まらないのです。点滴の針を抜いた後の身体からは、いつまでもタラタラと血が流れ出ます。ガーゼでシッカリと押さえてガムテープでグルグル巻きにして血止めをします。


亡くなった方のほとんどは紙オムツの中に排便をしています。人間は死ぬときにスッキリとして旅立つようです。お尻を綺麗にして肛門に詰めものをします。これからの移送中に便が出てきて汚れてしまうと、故人にとってもご遺族にとっても困るからです。人工肛門も処置を完全にしないと、体液や便が漏れてくるとか臭いが漂ってくる場合も多いのです。


心臓ペースメーカーは死亡時の医師の処置時に摘出するのが望ましいのですが、多忙の為多くの病院は摘出しません。これが火葬場職員を危険にさせます。中の電池が炉内で爆発するのです。ペースメーカー装着のご遺体は申し送りで伝えて爆発による事故を防ぎます。


臨終を迎えた病院の支払いが結構高価だったと思い出すご遺族は多いです。理由は死亡すると直ぐに無保険者になり全額自費負担になるからです。医療機関によって価格は違いますが平均で5万~10万円の費用が請求されます。エンゼルケアは保険適用の医療行為ではありません。自由診療枠の死後の処置ですが、それでも看取った看護師さんの献身的な処置が行われてこそ、綺麗な身体で旅立つことが出来るのです。

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